【アルツハイマー型認知症】陽性症状への対応と治療について解説

認知症

母親がアルツハイマー型認知症って診断された。今後どうやって対応していくべきなのか、アドバイスがあれば教えてほしい。

アルツハイマー型認知症の対応となると情報量が膨大です。今回は陽性症状への対応と治療について解説していきます。わりと具体的な内容なのでだいぶ長いです。なお、陰性症状への対応と治療については下記のリンクからどうぞ。

※以前、認知症専門医のもとで勉強していました。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。

アルツハイマー型認知症の治療の考え方

まず大前提として、現在の医療技術ではアルツハイマー型認知症を完治させることはできません。したがってこれから述べる治療とは、完治を目的としたものではありません。合併症を防いで認知症を加速させないための方法としてお考えください。

たとえば、糖尿病や高血圧症にも同じことが言えます。どんなに運動療法や食事療法、服薬治療をしても病気そのものが完治することはありません。しかし何もせずに放置していれば、動脈硬化が加速されて心筋梗塞や脳卒中といった合併症のリスクを高めてしまいます。

アルツハイマー型認知症においても必要な治療が行えていれば、認知症はごくゆっくりと進行するだけで済みます。しかし放置してしまうと、認知症は加速度的に悪くなり収拾がつかなくなります。

アルツハイマー型認知症の治療の考え方をまとめると以下の通りです。

  • 環境作りと介護
  • 薬に頼らない治療
  • 薬による治療

理想を言えば『環境作りと介護』『薬に頼らない治療』がベストです。『薬による治療』は最終手段としてお考えください。それでは一つずつ見ていきましょう。

陽性症状への対応|環境作りと介護

陽性症状への対応として、環境作りと介護における要点は2つです。

  • 認知症は病気の症状であることを理解する
  • 生い立ちを知って症状を予測する

認知症は病気の症状であることを理解する

陽性症状(妄想、抑うつ、興奮など)は、介護者の大きな負担となります。ところが、介護者自身が知らず知らずのうちに陽性症状を刺激し、増悪させてしまっていることが多くあります。

これらを断ち切るにはチグハグなことをする本人を怒ったり、言い聞かせたりする態度(矯正的態度)をとらないことです。ただし、それが非常に難しい。ご家族は健康だったころの本人を知っているため、どうしても過去と現在を比べてしまいます。辛い気持ちや悔しい気持ち、やるせない気持ちが積もりに積もってついイライラしてしまいます。

それでもやはり大切なのは、本人にイライラを見せないことです。ではどうするか。まずは『認知症が病気の症状であることを、理屈として理解することが必要です。

たとえば脳卒中という『病気』により、半身麻痺という『症状』を患っている方がいるとします。杖でなんとか歩ける方に対して、杖なんて使わないでシャキッと歩きなさいとは言わないですよね。

考え方はこれと同じです。アルツハイマー型認知症という『病気』により、認知症という『症状』が出ているのです。チグハグなことをしたり、おかしなことを言ったりするのは『病気の症状』なのです。

したがって、それらを矯正したところで残念ながら何の利益にもなりません。心情的に納得ができないとしても、できるだけ早い時期からこのことに理解を示すことが重要です。

患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる

あらかじめ予測しておけばさほど不安を感じず、避けるのではなく『受け止める/受け流す』といった行動がとりやすいと思います。認知症による言動や行動がチグハグで理解できないとき、周囲の人間は避けたがります。しかしこの避ける行為(逃げ腰)は、さらに陽性症状を加速させてしまいます。

ではどうしたらよいでしょうか。

『人柄や生活、人生からその人の認知症を考えて分析する』ことです。『痴呆を生きるということ』の中で著者の小澤 勲は『その人のストーリーを読む』という言葉で説明しています。

たとえば、物盗られ妄想の激しいおばあちゃんの若い頃を想像してみます。戦後の混乱期には盗った盗られたが日常だったのだろうと考え、それと現在の妄想のつながりを考えてみるわけです。このような分析をしたところで問題が解決できるわけではありませんが、考える過程においてその方を知ったような気持ちになります。

こういった要領で本人を知ることができると、言動や行動をある程度予測することができます。そして「あ~、言うよね~」といった感じで、それらの言動や行動に対して納得できるようになります。あらかじめ予測できればそれほど不安を感じませんし、冷静な対応ができるものです。逃げ腰な態度もある程度抑えることができると思います。

『認知症は病気の症状であることを理解する』『患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる』は、どんな薬にも勝る治療方法です。これらを意識することができれば、陽性症状が激しくならずに済みます。

まあとはいえ、やむを得ない状況があるのもたしかです。症状の強さには個人差があり、どれだけ良い対応をしても、妄想や興奮などの陽性症状が強く出てしまうことがあります。

そんなときはまず『薬に頼らない治療』、結果が芳しくなければ『薬による治療』を進めていきます。

陽性症状への対応|薬に頼らない治療

陽性症状への対応として、薬に頼らない治療方法は2つです。

  • 行動に焦点を当てたアプローチ
  • 感情に焦点を当てたアプローチ

行動に焦点を当てたアプローチ

行動に焦点を当てたアプローチとは『陽性症状を記録し、分析して対策を立てて実行する』ことです。

陽性症状で記録すること

いつ、どこで、どのような、どのくらいの頻度で、なにが起きたのかを記録する。

分析して対策を立てて実行する

➀症状の引き金になっている要因はなにか?
 →要因を取り除いたり、本人から遠ざけることはできないか?
➁介護者の対応が症状を増幅させていないか?
 →対応の方法を変えるなどして改善することはできないか?
➂症状の基盤になっている障害(記憶障害、注意障害、病識低下など)はないか?
 →対応の方法を変えてなんとか和らげることはできないか、ほかに治療の余地はないか?

ちょっとイメージがつきづらいかもしれませんが、ひとまずこんな感じす。

感情に焦点を当てたアプローチ

『回想療法』『感覚統合療法』『支持的精神療法』などが含まれます。たとえば、回想療法は患者さんの記憶と感情を刺激することで自尊心を回復させ、ストレスを減らそうとするものです。ただし、これらの有効性に関しては確立したものがないようです。

陽性症状に対する治療|薬による治療

あれもこれも試したけど、どうしてもうまくいかない。そんなときは最終手段として、薬による治療に踏み切ります。薬による治療には3つの原則があります。

‣適応はいずれかに該当する場合のみ
・患者本人にとって大きな苦痛になっている。
・患者本人または他者の安全や衛生、栄養の確保を脅かしている。
・介護者の大きな負担となり、現状を安定して続けることが困難になっている。
・非薬物的治療が行われているが、十分な効果がない。

‣治療の目標
上記の問題が許容範囲内に収まる程度に症状を和らげる。症状を消失させることが目標ではない。

‣減量の考慮
定期的に診察をして、薬の減量ができないかを考える。

治療で使われる主な薬物

陽性症状は妄想、幻覚、興奮、易刺激性、うつ、不安、脱抑制、異常行動などの症状が典型的です。症状の出方は様々ですが、すべての症状が同時に起こるわけではありません。

これらの症状には抗精神病薬、抗うつ剤、漢方薬、抗不安剤(いわゆる安定剤/睡眠薬)が適用されています。作用・副作用については省略しますが、ざっと紹介するとこんな感じです。

  • 抗精神病薬:ハロペリドール、リスペリドン、チアプリド
  • 抗うつ剤:トラゾドン、フルボキサミン
  • 漢方薬:抑肝散
  • 抗不安剤(いわゆる安定剤とか睡眠薬):陽性症状には効果がない

まとめ

アルツハイマー型認知症の陽性症状への対応と治療についてまとめました。陽性症状は介護者にとって大きな負担になることがあります。薬で鎮静化させるのは容易ですが、その前に認知症は病気の症状であることを理解し、生い立ちを知って症状の予測を立てるなどして、あらかじめ備える心が大切です。

参考文献

博野信次:臨床認知症学入門 正しい診療 正しいリハビリテーションとケア 改訂2版, 金芳堂, 2007

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