頭部外傷の既往があると、認知症の発症率が高まるって聞いたけどどうなの?
頭部外傷の既往は認知症の発症率を高める危険因子の一つです。詳しく解説していきます。
※以前、認知症専門医の下で勉強していました。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。
頭部外傷はアルツハイマー型認知症の発症率を高める
頭部外傷は認知症、厳密にはアルツハイマー型認知症の発症率を高める危険因子の一つです。この事実は2000年の時点において、Guo ZやPlassman BLらによる疫学調査で報告されています。
具体的にどのようなメカニズムで発症率が高まるのかというと、残念ながらそれは未だに定説がありません。しかし、どうやら脳予備能の低下がアルツハイマー型認知症の発症率を高くする可能性があると言われています。
言葉の意味
ちょっとだけ言葉の意味を整理します。
予備能の低下がアルツハイマー型認知症の発症率を高める可能性
アルツハイマー型認知症は脳細胞に異常な変性が起こることです。この異常な変性のことを病理学的変化といいますが、病理学的変化が起きてもすぐにアルツハイマー型認知症が発症するわけではありません。
そこには「ある程度、無症状でいられる期間」が存在します。その期間については年齢や性別、既往歴、性格や生活スタイル、学歴や知的活動(認知予備能)の影響を受けるため一概には言うことはできません。
先ほど、脳予備能と認知予備能を合わせて「予備能」と呼ぶと言いましたが、これには「認知機能低下を代償する能力」があります。この能力が働いているうちは症状の出現を抑制できるわけです。
ところが交通事故などで頭部外傷を負うと、大なり小なり脳に対して器質的なダメージを与えます。少なからず脳予備能を低下させる要因となるわけです。脳予備能の低下は予備能の一部が低下すること、つまり「症状の出現を抑制する能力が低下すること」を意味しています。
症状の出現を抑制する能力が低下した状態で病理学的変化が起こると、無症状でいられる期間がぐっと短くなります。つまり高齢になって他の病気などが原因で亡くなる前に、頭部外傷の既往により脳予備能が低下している高齢者は、既往のない高齢者に比べてアルツハイマー型認知症の発症率が高くなるわけです。
もちろん全員がそのような経過をたどるわけではありません。しかしいずれにせよ、頭部外傷による脳へのダメージはタダではすみません。年齢問わず、交通事故や転倒などにはくれぐれも気を付けたいところです。
スポーツ界隈における脳震盪の話題
スポーツ界隈でも脳震盪(頭部外傷の一種)の話題が挙がっています。特性上、主にコンタクトスポーツが取り上げられています。スポーツは頑張ってほしいけど、とはいえ怪我はしてほしくないです。スポーツをする人間にとってはなかなか悩ましい課題ではあります。以下、関連記事です。
参考文献
小熊芳実, 佐藤卓也, 佐藤 厚, 今村 徹:頭部外傷の既往がありアルツハイマー病によると考えられる認知機能障害を呈した患者の臨床的特徴. 神経心理学 32; 248-259, 2016
横堀將司ほか:頭部外傷の病態と治療. 日医大医会誌 2019; 15(2)
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