【アルツハイマー型認知症】陰性症状について解説

認知症

母親がアルツハイマー型認知症って診断された。これからどんな症状が出てくるのか不安なので教えてほしい。

アルツハイマー型認知症の症状は陰性症状と陽性症状に大別されます。情報量が膨大になるため、今回は陰性症状に絞って解説していきます。

陽性症状について詳しく知りたい方は下記のリンクをご参照ください。

自然経過について詳しく知りたい方は下記のリンクをご参照ください。

※以前、認知症専門医のもとで勉強していました。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。

陰性症状|今までできていた能力の喪失

陰性症状とは、今までできていた能力の喪失を意味します。アルツハイマー型認知症における代表的な陰性症状と、陰性症状のせいで結果的に起こる日常生活への影響についてまとめました。

症状

  • 新しい物事が覚えられない(記憶障害)
  • 集中力や根気が続かない(注意障害)
  • 家事や仕事の手順や段取りを組み立てられない(遂行機能障害)
  • 言葉がうまくしゃべれない~言われたことが十分に理解できない(言語障害)

結果的に起こる日常生活への影響

  • 入浴や着替えなどの自分の身の回りのことがちぐはぐになる
  • 料理や洗濯などといった家庭内の仕事がちぐはぐになる
  • 伝言や約束事が覚えられず人間付き合いがちぐはぐになる
  • 仕事上の失敗や不手際が多くなる
  • 適切な判断ができない
  • 家電などの道具や品物を正しく扱えない
  • ごく簡単な計算ができない

生活を共にしているご家族であれば、なんとなくイメージがつくかもしれません。日常生活におけるちぐはぐさや失敗は、もしかしたらアルツハイマー型認知症の陰性症状かもしれません。もし気になるようであれば早めの受診をおすすめします。物忘れ外来の詳細は認知症の人と家族の会をご参照ください。

記憶障害、遂行機能障害、病識の障害について詳しく解説

さて初期~中期のアルツハイマー型認知症において記憶障害、遂行機能障害、病識の障害はよく見られる症状です。ここで改めて少し解説していきます。理屈で理解していれば「まあこんなものか~」と、感情的にならずに済むかもしれません。

  • 記憶障害(新しい情報を脳に記録して引き出す能力の障害)
  • 遂行機能障害(手順や段取りを組み立てる能力の障害)
  • 病識の障害(自分の障害を正確に認識する判断力の低下)

記憶障害(新しい情報を脳に記録して引き出す能力の障害)

記憶障害はアルツハイマー型認知症だけでなく、ほとんどすべての認知症でみられる代表的な症状です。認知症でみられる記憶障害とは、新たに脳の中に入ってきた情報を記憶する能力の障害です。そのため新しいこと、最近のこと、ついさっきのことを忘れたり、思い出せなくなったりします。

厳密には『記憶を作っていない』というのが本質。症状が軽ければ断片的になる程度ですが、症状が重くなればなるほど記憶を作れなくなります。したがって忘れるというよりも、そもそも記憶を作っていないので引き出すことができないのです。

その一方、昔のことはよく覚えています。認知症による記憶障害では病気がかなり進行しないかぎり、昔から脳の中に蓄えられてきた情報を引き出す能力は保たれていることが多いのが一般的です。

遂行機能障害(手順や段取りを組み立てる能力の障害)

『AとBで重要なのはAだから、Aを先にやってBはあとにする』『AとBをやってからCをやる。だけど今はDはやらない』といった、手順や段取りを組み立てていく能力の障害です。遂行機能障害も多くの認知症で初期からみられます。

買い物や料理、料金の支払いといった場面において『あれをやって、それをやって、それからこれをやる』といった順番や段取りのある行動が苦手になるので、手際が悪かったり、スムーズにできなかったりします。

ところが不思議なことに『着替える、お金を払う、包丁を使う、字を書く、準備をする』ように、一つ一つの動作をやるように指示すると問題なくできます。

その理由は、指示通りにやるだけならば遂行機能はいらないからです。したがって手順や段取りを自分で判断する必要がない状況では、認知症があるように感じさせません。『言われたらできるけど、完全に任せるとできない』、これが遂行機能障害の特徴です。

病識の障害(自分の障害を正確に認識する判断力の低下)

自分の障害の程度を正確に判断する能力が低下します。本人は自分の物忘れや行動のちぐはぐ感をなんとなく自覚しているものの、それがどの程度ひどい状態なのかがわかりません。

本人に「もの忘れはしますか?」と尋ねると、「よく忘れます」との答えが返ってきます。続けて「もの忘れで困ることはありますか?」と尋ねると、「困ることはない」という答えが返ってきます。

同じことを家族に尋ねると、「明らかに忘れています」との回答がよく聞かれます。つまり本人は自分の症状や障害を正確に認識できていないということです。

まとめ

アルツハイマー型認知症の陰性症状とは、今までできていた能力の喪失を意味します。代表的な症状は記憶障害、遂行機能障害、注意障害、言語障害です。ご両親の日常生活場面におけるちぐはぐさや失敗は、もしかしたらアルツハイマー型認知症の陰性症状のせいかもしれません。悩む前に、まずはかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。

参考文献

博野信次:臨床認知症学入門 正しい診療 正しいリハビリテーションとケア 改訂2版, 金芳堂, 2007

コメント

タイトルとURLをコピーしました