母親の物忘れが気になるので、物忘れ外来に受診させたい。受診前にやることや受診時の流れについて教えてほしい。
物忘れ外来を受診する前に整理しておくべきポイントや受診時の流れについて解説します。
※以前、認知症専門医の下で勉強していました。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。
物忘れ外来とは
物忘れ外来は認知症を診るための専門外来です。認知症外来とも呼ばれており、主に神経内科医や精神科医が診療に当たります。
物忘れ外来は全国に点在しますが、病院選びが難しいところです。一口に「おすすめの病院はココ」とは言い切れませんが、ひとまず公益社団法人 認知症の人と家族の会のホームページをご覧いただけたらと思います。
受診時の注意点
さていきなり注意点ですが、一人だけで受診させてはいけません。これはかなり重要です。理由は本人の話だけでは信ぴょう性に欠けるからです。必ず、できれば同居する家族が同席してください。
認知症の診察では「生活上の障害がどの程度あるのか」がポイントになります。本人自身が「なんだか変かも」と認識している場合もありますが、具体的にどのくらい悪いのかといった病気の程度は把握できていません。したがって、必ずできれば同居する家族から実態を聴取する必要があります。
受診時の持ち物
- 保険証
- 診察券
- おくすり手帳
- その他(あれば紹介状や情報提供書など)
おくすり手帳はめちゃめちゃ大切です。というのも、薬の副作用が認知症を引き起こしたり、助長させたりすることがあるからです。そんなときは単純に薬をやめてみるのが最善だったりします。準備を本人任せにせず、出発前には必ず確認しておきましょう。
診察の流れ(当院の場合)
診察の流れは病院によって異なると思いますが、ひとまず当院での流れをご紹介します。
一回目
問診(本人、家族):40分程度
認知症のスクリーニングテスト(本人):20分程度
生活上の様子について聴取(家族):60分程度
血液検査(本人):5分程度
二回目
認知症の詳細なテスト‐前半‐(本人):60分程度
MRI検査(本人):20分程度
三回目
認知症の詳細なテスト‐後半‐(本人):60分程度
脳波検査(本人):10分程度
四回目
身体機能検査(本人):10分程度
病状説明(家族、本人):60分~90分
ご覧の通りかなりの長丁場ですが、これくらい時間をかけないと、本当の意味での「認知症の病態」が把握できません。したがってある程度時間をかけて診てくれる病院を探す必要がありますが、こればかりはなんとも情報が足りずにアドバイスができません。
受診前に整理しておくべきポイント
認知症の診療では「問診」がかなり重要です。というのも、得られた情報を整理することが認知症治療の第一歩だからです。したがってご家族に情報をある程度まとめておいてもらうと、診療が非常にスムーズですし、なによりご家族も情報を整理する良い機会になります。ここでは整理しておくべきポイントについてご紹介します。
- 現在の状態
- これまでの経過
- 既往歴
大きく分けて3点です。詳しく説明します。
現在の状態
まずは現在の状態についてです。何がどう具合が悪いでしょうか。「物忘れ、自分の身の回りのこと(服装、入浴、整容)、家庭内外の生活、気分や感情、精神面」について考えてみましょう。具体的なエピソードがあればまとめておくと良いです(全部ではなくても大丈夫です)。
これまでの経過
次はこれまでの経過についてです。認知症の領域では「経過」を整理するのが重要です。「症状が強くなったのはいつ?」ではなく「症状が始まったのはいつ?」がポイントです。ご家族は以下のように考えてください。
ご本人の物忘れには不自然さを感じると思います。本来のご本人を考えた際、いくら高齢だからと言っても、あまりにも直前のことを忘れていたり、以前なら絶対に覚えているはずのことを忘れていたりなど「あらら?」という不自然さを感じると思います。
生活に困るか困らないかは別として、「あらら?」という不自然さを感じるようになったのは、最大でどのくらい遡れるでしょうか。また、どんな内容の物忘れだったでしょうか。もしかしたら最初は物忘れではなく、身だしなみの不自然さ、料理の手順や味の変化などだったかもしれません。
ということで、例を挙げるので時系列に整理してみましょう。
- 5年前から同じ話を何度もしたり、同じものを何度も買ってくるようになった
- 4年前から料理の味付けが変わってきた/部屋が散らかっている
- 3年前から些細なことでイライラするようになった
- 2年前から被害妄想のような発言が聞かれるようになった
- 1年前から身の回りのことがだらしなくなってきた
あくまでも例なので症状や年数はざっくりですが、上記のように時系列で整理するとわかりやすいです。ただし、こういうのは後知恵なので「そういえば〇年前くらいから物忘れのような…」くらいで結構です。
情報源は同居する家族のものが一番ですが、たまにしか会わない非同居の親族からの情報も参考になります。繰り返しますが、生活に困る困らないは別として「症状が始まったのはいつ?」考えるのがポイントです。
既往歴
最後は既往歴について確認します。正確に認知症の病態を把握するには欠かせない情報です。認知症は、頭部外傷や脳梗塞が引き金になることが多々あります。他にも甲状腺などのホルモンの病気、高血圧や糖尿病などの持病の有無も重要です。ということで以下の項目をチェックしてみましょう。
- 大きな事故やケガをしたことはありませんか?
- 手術をしたことはありませんか?
- 甲状腺などのホルモンの病気はありませんか?
- 高血圧や糖尿病などの生活習慣病はありませんか?
既往歴ではありませんが、以下の内容も確認しましょう。
- 現時点で飲んでいる薬や漢方薬、ビタミン剤などはありますか?
- 飲酒や喫煙の習慣はありますか?
まとめ
物忘れ外来と聞くとちょっと敬遠してしまい、受診しにくいかもしれませんが、本当に心配であれば一度診てもらうことを強くお勧めします。以下、受診時のポイントをまとめます。
- 必ず、できれば同居する家族が同席しましょう
- おくすり手帳をお忘れなく
- ある程度の情報をまとめておくとスムーズ
ある程度の情報とは
- 現在の状態(物忘れ、身の回りのこと、家庭内外の生活、気分や感情面)
- これまでの経過(〇年前から物忘れ、□□年前から身の回りのことが…など)
- 既往歴(大きな事故やケガ、手術歴、ホルモンの病気、生活習慣病など)
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