テニス選手にとってショット技術を存分に発揮するためには、ボールに対して素早く反応し、打ちやすい安定したフォームをとる必要があります。加えてコート内を縦横無尽に何度も移動したり、素早く方向転換したりする高い身体能力も求められます。
2024年に発表されたBagusらの研究によると、テニス選手のスピード・アジリティ・パワー向上のためにはプライオメトリックトレーニングが効果的と言われています。本記事ではテニス選手に必要なプライオメトリックトレーニングについてざっくりと解説していきます。
プライオメトリックトレーニングとは
プライオメトリックトレーニングとは、筋肉の「伸張-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle:SSC)」を活用して爆発的な力を発揮するトレーニング方法です。このSSCは、筋肉が伸びた後に素早く縮む動き(短縮≒収縮)によって高いパフォーマンスを生み出すとされています。バネをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
プライオメトリックトレーニングの効果
Gamlathらの研究によると、通常のテニストレーニングの一部をプライオメトリックトレーニングに切り替えて6週間実施したところ、➀T-test ➁505 Agility test ➂Vertical Jump test ➃Short distance Acceleration testの4つのテストにおいて有意に向上したと報告しています。
4つのテストはそれぞれ主にスピードやアジリティを評価するテストです。これらのテストにおいて効果が見られたということは、つまり身体能力としてのパフォーマンスアップに繋がったことを意味しています。筋肉系や神経系の適応が実践的なイメージで例えると、方向転換時の切り返しが早くなったとか、これまで届かなかったボールに届くようになったとかそんな感じです。
なおテストの詳細は以下の通りです。YouTubeのリンク動画は英語ですが、見ていただければおおよその内容はイメージできるかと思います。
T-test

前方ダッシュ(A→B)、サイドステップ(B→C→D→E)、後方ダッシュ(E→A)といった多方向への移動を含むテストです。アジリティに加えスピードのコントロールや方向転換の身体能力が試されます。
505 Agility test

15mの全力疾走(A→C)から切り返し、そこから5m走り抜けたとき(C→B)の時間を計測します。減速能力や切り返し能力を評価するテストです。
Vertical Jump test

垂直跳びテストです。膝を90°に曲げた位置から腕の振りを利用しつつ垂直にジャンプしたときの高さを計測します。瞬発力やパワーが試されます。最もシンプルな評価方法と言えます。
Short distance Acceleration test

一般的に10mを全速力で駆け抜けた時間を計測します。瞬発力やスピードが試されます。
プライオメトリックトレーニングのメニュー
過度な負担や疲労を引き起こすことなく効果的に神経系を刺激するには、4~6週間のトレーニングが理想的と言われています。さらに通常のテニストレーニングと並行して実施することから、十分な回復を確保するためにもプライオメトリックトレーニング自体は週3回の実施とします。具体的なトレーニングメニューは以下の通りです。
※片脚の記載がないメニューは基本的に両脚で行います。英語と日本語が混ざっていて見づらいと思いますが和訳の都合上ご容赦ください。なお言葉の意味合いとしては「ホップ=小さく跳ぶ」「ジャンプ=大きく跳ぶ」というニュアンスです。これだけではイメージしづらいと思いますのでリンク動画もご参照ください。
週間 | メニュー | セット×回数 | 強度 |
第1週 | Side to Side Hops 15cmハードルジャンプ 20cmボックスジャンプ | 2×16 3×12 2×12 | 低 低 低 |
第2週 | Side to Side Hops(15cmハードル) 20cmハードルジャンプ 20cmボックスジャンプ 立ち幅跳び | 2×10 3×10 2×12 5×6 | 低 低 中 中 |
第3週 | Side to Side Hops(15cmハードル) 20cmハードルジャンプ 15cm片脚ボックスジャンプ 立ち幅跳び 30cmボックスジャンプ | 2×10 3×10 2×8 5×6 4×6 | 低 低 中 中 高 |
第4週 | Side to Side Hops(15cmハードル) 20cmハードルジャンプ 15cm片脚ボックスジャンプ 立ち幅跳びからの横スプリント 30cmボックスジャンプ | 2×10 3×10 4×8 5×4 4×8 | 低 中 中 高 高 |
第5週 | Side to Side Hops(15cmハードル) 20cmハードルジャンプ 15cm片脚ボックスジャンプ 立ち幅跳びからの横スプリント 30cmボックスジャンプ 片脚横跳び | 2×10 3×10 2×8 5×4 4×8 2×6 | 低 中 中 中 高 高 |
第6週 | Side to Side Hops 15cmハードルジャンプ 20cmボックスジャンプ ヘキサゴンドリル ダブルレッグホップ | 2×12 3×10 2×12 2×12 2×8 | 低 低 中 中 高 |
まとめ
今回は6週間という限られた期間内での効果を検証したものでしたが、おそらく長期的にみてもプライオメトリックトレーニングの効果は一定の成果を示すものと思われます。地道かもしれませんが「継続は力なり」です。日々の練習にプライオメトリックトレーニングの取り入れてパフォーマンスアップを目指しましょう。
参考文献
Effect plyometric training increase speed and agility on tennis player: Literature Review
Performance Sports Therapy, The Stretch Shortening Cycle, 2016
The Impact Of Six Weeks Of Plyometric Training Program On Agility, Explosive Power, And Acceleration Performance In Young Elite Tennis Players
コメント